賃貸借契約は、賃貸人が賃借人に物を使用・収益させることを約束し、賃借人が賃貸人に賃料を支払うことを約束することで成立します(民法601条)。これを諾成契約といいます。
契約というと皆さんは相当大がかりなものを想像されると思います。しかし、民法が賃貸借契約の成立について、意思表示の合致だけで契約は成立するとしている以上、理論上は口約束によっても契約は成立するのです。

もっとも、実際はそんなに単純には判断されません。
どの相手方と、どのような内容の賃貸借契約を、締結しようとする合意があったかどうか。が重要です。
これは単に、目の前にいる相手と「この建物を貸してあげるよ」と言えばその時点で契約が成立するというような形式的な判断がなされるものではありません。
当事者は誰と契約を締結するつもりだったか、どの時点で成立させるつもりだったか、当事者の意思を実質的に判断することが重要です。

これだけではわかりにくいと思います。以下、具体的に検討していきます。


上述のように、賃貸借契約はお互いの約束のみで理論上成立します。もっとも、通常は賃貸借契約を締結する際に、契約書を作ることになります。このような場合、いつ契約が成立したことになるのでしょうか?
賃料をとって部屋を貸す約束をして、後日に契約書を作成することになっていたところ、やっぱりその部屋が気に入らなかったとして借りる側があの約束はなかったことにしたい、と言ってきたような場合、契約は成立したのかどうかというようなことが問題となります。

確かに、口約束はなされており、その時点で契約が締結されているようにも思えます。
しかし、契約書を作成することを予定しているような場合、当事者の意思としては通常、契約内容もはっきり定まっていない口約束の時点ではなく、契約書作成時に契約を成立させようとの認識を有しているものといえます。そのため、このような場合でも、契約書に調印した時点と考えるのです。
先程の実質的に考えるというのはこういう意味です。

もっとも、契約書作成に至らず契約が成立していないと考えられる場合でも、それによって相手方に不測の損害を与えたような場合、契約準備段階における信義則上の注意義務違反として損害賠償請求が認められることもあります。
たとえば、部屋を借りる前提で散々部屋の所有者に部屋を改良させたあげく、結局借りる側が一方的に契約成立を拒絶したような場合が考えられます(最判昭和59年9月18日参照)。

契約書に書く中身としては、①当事者、②目的物、③使用目的、④賃料、⑤期間、⑥その他契約条項となります。
国土交通省住宅局から公表された、賃貸住宅標準契約書という雛形が参考になるかと思います。


知人に部屋を貸したところ、知人がこの部屋は知人が経営する会社が借りたと主張しているとします。

なんとなく、結局その知人が賃料を支払ってくれるのだからあまり問題がないようにも見えます。

しかし、法律上は個人に賃貸するなら個人が、会社に賃貸するなら法人である会社が支払義務者となります。そのため、会社が倒産しても個人である知人は支払義務を負いません。
また、会社に賃貸したとなると経営陣の交代等により、賃値人の予期せぬ人物の出入りを許してしまうおそれがあります。

以上のように、貸した相手がだれであるか、ということは重要なことです。

このような事態を阻止するためには、契約書に「個人として使用するため」というように、使用目的を明記することです。

なお、仮に契約書にそのように明記していても、会社としての事実上の利用が継続されることで、裁判となった際、賃貸人が会社を賃借人とすることを黙認したものと判断されるおそれもあります。
契約書は重要な証拠ですが、それはあくまで証拠であり、そこに書いてあることすべてが必ずしも認められることにはならないからです。
最悪の事態にならないよう、このような場合は早めに弁護士に相談することをおすすめします。
南森町佐野法律特許事務所アクセスマップ
〒530-0041
大阪市北区天神橋2丁目5番25号
若杉グランドビル7階  南森町佐野法律特許事務所
TEL: 06(6136)1020 FAX: 06(6136)1021
※JR東西線  大阪天満宮3番出口 徒歩1分
(地下鉄谷町線・堺筋線 南森町から、4a出口より、まずJR連絡口へ)
※当ビル内に立体駐車場(有料:200円/30分)はございますが、
車体制限(高さ1.55M、幅1.75M,長さ5.05m)に、ご注意ください。