不動産を賃借する場合、賃料の支払いは賃貸借契約の内容となっており、当然支払わなければなりません。
もっとも、これ以外にも通常は敷金・礼金・保証金といった一時金を支払うことになります。

判例(最判昭和44年7月17日)によると、建物の賃貸借の際、賃借人の賃料債務その他の債務を担保する目的で賃借人から賃貸人に交付される金銭をいいます。
明渡したとき、賃借人に賃料等で債務不履行があれば差し引いた分を、なければ全額を返還することとなります。そのため、差し入れられた敷金は返還されることを前提としています。

礼金と呼ばれることもあります。
学説上は法的性質として、賃料の前払い、場所的利益の対価、賃借権設定の対価などが考えられています。そのため、敷金・保証金と異なり、明渡しの際に賃借人に返還することが原則として不要です。最判昭和29年3月11日も同様に考えています。

3、保証金

敷金と同様、債務を担保するために交付されます。
もっとも、賃貸人の建物建設を協力するといった目的も有しており、貸金的性質も持っています。
そのため、賃貸借契約の終了にこだわらず一定時期から分割返済する、あるいは一定金額を償却して返還するなど、敷金にはない特徴を有しています。


①敷金と賃料不払い

賃料不払いで賃貸人から解約の意思表示があったが、未払い賃料に充当できるだけの敷金を差し入れているような場合、解約は有効でしょうか?

敷金の目的は、賃借人の賃料債務その他の債務を担保することにあります。契約存続中は賃料不払いがあっても当然には充当されません。そのため、十分な敷金が差し入れられていても、賃料不払いを理由とする解除が認められるものといえます。

②敷金と相殺

契約終了時に残存する賃料債権は、敷金が存在する限りにおいて敷金の充当により当然に消滅します。これは当事者の意思表示によってなされる相殺とは異なります。
そのため、賃料債権について物上代位による差押えがなされても、その消滅を抵当権者に主張することができます。

③敷引特約

関西では、敷金の返還にあたって、あらかじめ一定額を控除する約束を結ぶことがあり、これを敷引特約といいます。
この性質は、家屋の通常の損耗(普通に使っていて当然に生じる目的物に生じる損傷のこと)に関する原状回復費用を賃借人の負担させるものです。

「敷引特約」は、消費者契約法の適用により、一定範囲の敷引きの特約について、すでに関西方面の簡裁や地裁等で無効判決が出ています。
また、最高裁では敷引特約を一般的に無効とする判決はなされていませんが、最判平成17年12月16日が、賃借人が負担する通常損耗の範囲が具体的に明確に賃借人にわかるように具体的に表示されているような場合を除き、賃借人の通常使用に伴う損耗分の補修費用を賃借人に負担させる原状回復特約は無効であると判断しました。
そのため、今後、最高裁でも敷引特約を無効とする判決が出る可能性はあるといえます。

④当事者の交代と敷金関係の承継

賃貸人の地位が移転する場合
旧賃貸人が持っていた敷金返還債務は、特段の事情がない限り新所有者である新賃貸人に当然に承継されます。これにしたがって、旧所有者に差し入れられていた敷金は新所有者に承継されます。
新所有者が旧所有者から不動産を譲り受けた際に、旧賃貸人・賃借人間で敷金の授受があったことを知らない場合でも、当然に敷金返還債務を承継します。
すなわち新所有者が、旧所有者が返すべきであった敷金を返済する義務を負うのです。

賃借人の地位が移転する場合
旧賃借人が有していた敷金返還請求権は、特段の事情のない限り新賃借人に承継されません。
旧賃借人と賃貸人との間で敷金の精算をした上で、改めて新賃借人と賃貸人との間で敷金契約を締結することになります。

⑤賃貸人の交代と保証金返還債務の承継

保証金の貸金的性質から、敷金と異なって賃貸人が交代したとしても原則として新所有者が保証金返還債務を承継するわけではありません。

問題となるのは、建物所有者が倒産して競売になったような場合です。旧賃貸人たる建物所有者は当然お金がありません。
敷金であれば、返還債務は新所有者に移転するので、賃借人は新所有者から返還してもらえます。
これに対し、保証金であれば原則返還債務は移転しないことから、賃借人はお金のない旧所有者から返還してもらわざるを得なくなります。が、お金がない以上、事実上返ってこないでしょう。

このように、敷金か保証金かの違いは大きな意味を持ちます。そのため、契約時にはいずれであるか、きちんと確認しておく必要があります。
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