契約と義務

賃貸人は賃借人に対し土地・建物を使用・収益させる義務を負い、賃借人は賃貸人に対して義務を負います(民法601条)。

もっとも、これらの基本的義務以外にも、賃貸人・賃借人はお互いに義務を負います。

賃貸人は、目的物を使用収益させるために必要な修繕をする義務を負います。賃借人は、賃貸人が物の保存に必要な行為をすることを拒むことはできません(民法606条)。

補修のため部屋に立ち入るなどの保存行為が賃借人の意思に反するもので、それによって賃借人が賃借した目的を達成することができない場合は、賃借人から契約を解除できます(民法607条)。

賃貸人の修繕義務の履行に協力するため、賃借人は、賃借物が修繕を要する場合に遅滞なく、賃貸人に通知する義務があります(民法615条)。

賃貸人は、賃借人が支出した必要費は直ちに返還する義務を負い、有益費は契約終了時に返還する義務を負います(608条)。

必要費とは、目的物の使用・収益するための状態を維持するために必要な費用のことをいいます。たとえば、トイレの故障にかかった修理代などです。

有益費とは、目的物の改良のために支出された費用をいいます。たとえば、トイレを汲み取り式から水洗式に改造するような場合にかかった改造費などです。

賃借人は、不動産の使用・収益にあたって、契約上特約によって定められた用法や、不動産の性質によって定まった用法に従う義務があります。これを用法遵守義務といいます(民法616条、594条)。
たとえば、マンションでペットを飼わない、近所迷惑になる騒音を出さない、というようなことです。

契約終了すると、賃借人は目的物を返還する義務を負います。また、借りていた物は原状
の戻して返す義務を負います(民法616条、597条、598条)。

原状回復義務を負わない例外があります。

まず、賃借物に自分の物をくっつけて分離することが困難な状態にある場合、いわゆる付合といわれる状態の場合は、原状回復義務を負いません。
たとえば、賃借人が借りていた部屋にペンキを塗ったような場合です。当然、部屋の壁から塗ったペンキをはがすことはできません。
これによって、賃借物の価値が高まっている場合、賃貸人は費用償還義務を負います。

次に、借地人が建物買取請求権を行使する場合です。本来、自分が建てた建物もつぶして土地を更地にするはずですが、借地人の投下資本回収のため、また国民経済的損失が大きいため、借地借家法13条により賃貸人に対し買取りを請求できます。

そして、借家人が造作買取請求権を行使する場合です。たとえば、クーラーを自分で備え付けたような場合、建物返還の際にクーラーの買取りを請求できるのです。借地借家法33条で認められています。

①住民の騒音と賃借人・賃貸人の義務

マンションのような共同住宅では多数の住民が住んでおり、騒音について問題がしばしば起こります。

人が生活する上で一切物音を立てずに生活することは不可能です。特にマンションのように壁や床一枚で他人の部屋と接しているような場合、音は響きやすいといえます。そのため、ある程度の音を立てることは許容されますし、義務違反は生じません。
もっとも、判例が示す、受忍限度を超えるような騒音を起こすような場合は、賃借人は用法遵守義務違反となるものと考えられます。

また、横の部屋の住人がうるさいため静かにさせてほしいと賃借人に頼まれた場合、賃貸人にはどのような義務が発生するでしょうか。
賃貸人には賃借人に目的物を使用収益させる義務があります。住人が寝られないなどマンションの利用に支障が生じる程に達した場合、賃貸人には騒音を出す賃借人による加害行為をやめさせる義務が生じます。いくら賃借人が頼んでも賃貸人が何もしてくれない場合、この義務違反が生じる可能性があります。

②賃貸人の修繕義務の不履行と賃借人の賃料支払義務

賃貸人が修繕義務を履行せず、賃借人の使用に支障が生じている場合、賃借した物の一部滅失の場合に賃料減額請求権を認める民法611条1項を類推適用して、賃借人の利用に支障が生じた部分につき賃料減額請求権を認めるとした地裁判例があります。

また、最高裁は、建物の破損・腐蝕が居住に著しい支障を生ずるほどでない限り、賃料全額の支払いまでは拒むことはできない、としました。

③部屋を賭博の場所や暴力団の事務所として利用する行為

賭博行為は犯罪行為です。このような不適切な用途に利用すること自体が用法遵守義務違反となり、契約解除事由となります。

暴力団が、組事務所として利用するだけでは、必ずしも違法行為がんされているか不明であり、直ちに用法遵守義務違反とはなりません。
もっとも、暴力団が入室するという事実は賃貸人に多大な影響を及ぼします。暴力団が出入りしているというだけでマンション入居者が減少するかもしれませんし、仮に抗争や犯罪行為が生じた場合、被害は甚大なものとなりかねません。

そこで、契約書に暴力団排除条項を設けるなどすべきです。賃借人の身元調査もきっちりやるべきでしょう。

以上にもかかわらず、暴力団事務所として使用されてしまった場合、警察や弁護士にすぐに連絡すべきです。
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